妊娠中に「こむら返り」が起きやすいのはなぜ?足がつる原因や対処法
監修:古市 菜緒
- プロフィール
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助産師としてこれまで10,000件以上の出産に携わり、5,000人以上の方を対象に産前・産後セミナー等の講師を務める。助産師のレベルが世界的に高いAUSとNZで数年生活、帰国後バースコンサルタントを起ち上げる。現在は、高齢出産の対象であるOVER35の方にむけた「妊娠・出産・育児」をサポートする活動を行う。その他、関連する記事の執筆やサービス・商品の監修、企業のセミナー講師、産科病院のコンサルタントなどを務める。
こむら返りは、妊娠期の女性を悩ませるマイナートラブル(妊娠に伴っておこるさまざまな体の不調)の1つです。普通に生活しているなかで急にふくらはぎの筋肉がピーンと張る感触がして、足に激痛が走ります。しばらく動けなくなり、大きいお腹をかかえて体勢も変えにくいなかで、痛みが去るまで我慢しながら身もだえしなければなりません。
日中も夜間も起こり、特に就寝中に起きることがしばしばあります。せっかくの睡眠を妨げられるため、なるべく体を休ませたい妊婦さんとってはつらい現象です。
こむら返りは、妊娠の有無に関係なく誰にでも起こるものですが、妊娠中は特に起こりやすくなります。一体、こむら返りとはどのような現象なのか、なぜ起こるのか、起きたときの対処法、起こりにくくする予防法を詳しく紹介します。
妊娠中に起きやすい「こむら返り」とは?
「こむら返り」とは、ふくらはぎの筋肉が突然、ひどい痛みを伴う「けいれん」を起こす現象をいいます。一般的には「足がつる」と表現されることが多いですが、単に「つる」だけでなく、ふくらはぎの筋肉がギューッと縮み、足の指先まで痛みが走るのが特徴です。
専門的には腓腹筋(ひふくきん)の有痛性限局性筋痙攣(ゆうつうせいげんきょくせいきんけいれん)であり、腓腹筋痙攣(ひふくきんけいれん)とも呼ばれます。腓の訓読みは「こむら」です。
こむら返りは、筋肉が突然、異常収縮することで起こります。特に運動中に多いですが、寝ているとき、普通の生活を送っているときにも発生するため、原因がよくわからないのが特徴です。
痛みに耐えていると短時間で治まるケースがほとんどですが、痛みが数分間続いたり、けいれんが治まってもしばらく持続したりすることもあります。
なお、筋肉の線維の一部が断裂する肉離れとは異なるので注意してください。肉離れは損傷のため、修復するまでの数週間くらい痛みが続きます。また、こむら返りの痛みは、筋肉痛とは明らかに種類の異なる激痛です。
妊娠中にこむら返りが起きやすい理由は?
こむら返りが起こる原因やメカニズム、特に妊娠中に起こる原因について解説します。
こむら返りの原因やメカニズムは、十分にわかっていません。電解質(ミネラル)の不足、血の巡りの悪化、腓腹筋への負荷の増大、神経の圧迫などが考えられています。このほか、糖尿病などの病気や薬などの特別な原因が考えられるケースもあるようです。
こむら返りは妊娠中に生じやすく、特に妊娠後期では半数の人が経験するとされています。多くの妊婦さんを苦しめているようです。妊娠中のこむら返りの主な原因として、次の3つがあげられます。
●原因①:ミネラルが不足しがちなため
ミネラルは5大栄養素の1つであり、筋肉や神経、ホルモンの働きを調節するほか、骨や血液の材料になる役割を果たします。別名は無機質ですが、体液に溶けて重要な働きをするので電解質とも呼ばれます。代表的なミネラルは、ナトリウム・カリウム・カルシウム・マグネシウム・リン・鉄・亜鉛・銅・マンガンなどです。
妊娠中は、摂取したミネラルが赤ちゃんに移行しやすいほか、子宮に多量の血液を送り込む必要から、血液が水分で薄まった状態で量が増えます。そのため、血液中のミネラルが不足し、筋肉の伸縮に必要なミネラルが十分に届きにくくなるのです。
例えば、マグネシウムは筋肉の収縮をスムーズにするために必要で、不足すると筋肉のけいれんが起こりやすくなり、カルシウムは神経の刺激と筋肉に伝えて収縮させる神経伝達に関係し、不足すると筋肉のふるえや脱力が生じます。
このようなミネラル不足が、こむら返りの要因と考えられています。
●原因②:足に疲れが溜まりやすいため
お腹が大きくなると、重心に変化が生じ、体の平衡を保つためにふくらはぎの筋肉(腓腹筋)の負担が大きくなります。体重増加も要因です。その結果、筋肉に疲労が溜まり(筋肉疲労、筋疲労)、こむら返りが起きやすくなると考えられています。
●原因③:半身が血行不良になりやすいため
お腹が大きくなると、次の原因から下半身の血の巡りが悪くなりがちです。
1)子宮に多くの血液が必要になり、手足などの末梢に血液が届きにくくなる
2)子宮に血管が圧迫され、下半身の血流も悪くなる
3)運動が不足しがちになり、下肢の循環が滞る
これらの結果、下半身の血行が悪くなり、①腓腹筋に酸素や栄養素が十分に行きわたらなくなる、②静脈血が心臓に戻らずにむくみが生じる、などによりこむら返りが起こりやすくなると考えられています。
妊娠中にこむら返りが起きたときの対処法
もし、こむら返りが起きたら、以下の3つの対応を行うとよいでしょう。
対処法①:ふくらはぎの筋肉を伸ばす
つま先を手でつかみお腹に引き寄せるようにゆっくりと反らしましょう。このとき、長く息を吐きながらゆっくりと行うことが重要です。反射弓(反射神経の回路)や腱器官(筋肉の張力を測定する感覚器)の働きを高めて、けいれんした筋肉を正常に戻しやすくなります。強い力で急激に伸ばすと逆効果なので気をつけましょう。
妊娠後期になると、お腹が大きくなり自分でつま先をつかむことが難しくなります。家族が周りにいる際は、サポートをしてもらいましょう。もし一人の場合は、無理につま先はつかまず、足首を使ってつま先を手前にゆっくりと倒してください。
対処法②:ふくらはぎのマッサージ
ふくらはぎの筋肉を、足部から太ももの方向に向かってこするようにマッサージするのも効果的です 。マッサージの際はマタニティクリームなどを使うとすべりやすくて肌を傷めず、スキンケアもできるのでよいでしょう。
対処法③:患部を温める
筋肉の緊張を和らげるため、使い捨てカイロや蒸しタオル、湯たんぽなどで温めるのもよいでしょう。
こむら返りが治まったら、ゆっくり患部をマッサージし、水分補給をします。ミネラルを補うために、経口補水液や麦茶などを飲むのもよいでしょう。
妊娠中のこむら返りを減らすには?
起きてしまったこむら返りには先ほどのように対処するとして、なるべく起こらないようにする対策も重要です。予防策を6つ紹介します。
予防法1:足のマッサージやストレッチを行う
足のマッサージやストレッチにより血の巡りをよくし、筋肉をやわらかくしましょう。血行不良によりふくらはぎの筋肉が硬くなり、栄養素が不足して老廃物が蓄積することがこむら返りの要因と考えられています。そのため、マッサージやストレッチにより栄養素を筋肉に届け、老廃物を排出させます。
マッサージでは、ふくらはぎをもんだりさすったりするとよいでしょう。
ストレッチでは、壁を使ってゆっくりとふくらはぎの筋肉を痛みが出ない程度に伸ばし、10秒ほどそのままの状態を保ちます。インターバルを入れつつ、数回繰り返しましょう。
予防法2:運動をする
下肢の血行を改善・促進し、筋肉をほぐすためには運動も効果的です。激しい運動はかえって筋疲労の要因になるため、軽い運動をおすすめします。特に妊娠中は無理せず、ウォーキングやヨガなどを行いましょう。
予防法3:ミネラルを積極的に補給する
マグネシウム(Mg)とカルシウム(Ca)の補給が重要になります。これらを多く含む食材を積極的に摂取しましょう。サプリメントよりもなるべく食べ物から摂取するのが望ましいでしょう。
・マグネシウム:海藻類やナッツ類、大豆製品、発芽玄米、ライ麦パンなど
・カルシウム:乳製品、小魚、小松菜、納豆など
厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2020年版)」によると、マグネシウムには特に上限量は設定されていません。カルシウムは過剰摂取により健康に悪影響が生じる可能性があり、2,500mg/日が上限量に設定されています。
予防法4:寝ている時に足を底屈させないようにする
重い布団などを足部にかけず、足部を底屈(足先を伸ばすように倒す)させないようにして寝ましょう。底屈させると睡眠中に腓腹筋が弛緩し、その後、急激な筋収縮が起こって夜中にこむら返りが起きやすくなります。
予防法5:下半身を温める
冷えは筋肉を収縮させてこむら返りを起こしやすくします。室内でも靴下やレッグウォーマーを着用しましょう。足湯や半身浴をするのもおすすめです。
予防法6:水分をこまめに摂る
水分不足になると筋肉の伸縮機能がうまく働かなくなり、こむら返りを起こしやすくなります。喉の渇きを感じる前に、こまめに水分補給しましょう。ミネラルを含む経口補水液や麦茶、ハーブティーなども取り入れると効果的です。
妊娠中のマイナートラブルを減らして健やかに出産を迎えよう
妊娠中は、ホルモンや自律神経のバランスの変化、代謝の変化、子宮による圧迫などで、様々なマイナートラブルが生じます。つわり(食欲の低下・吐き気)、むくみ、立ちくらみ、胃のつかえ感、胸やけ、頭痛、動悸、肩こり・腰痛、便秘、頻尿などと数え上げればたくさんありますが、こむら返りも多くの妊婦さんを苦しめるトラブルの1つです。
大きなお腹をかかえて、普段の生活だけでも負担が大きいなかで、不快・苦痛なマイナートラブルは1つでも減らしたいですよね。こむら返りに苦しむかたも、まだ経験していない妊婦さんも、もちろんこれからママになる方も、少しでも安楽な心で出産を迎えるために、今回ご紹介した対処法や予防法をお試しください。