妊婦さんの便秘の改善方法は?妊娠中になりやすい理由や気になる疑問
監修:古市 菜緒
- プロフィール
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助産師としてこれまで10,000件以上の出産に携わり、5,000人以上の方を対象に産前・産後セミナー等の講師を務める。助産師のレベルが世界的に高いAUSとNZで数年生活、帰国後バースコンサルタントを起ち上げる。現在は、高齢出産の対象であるOVER35の方にむけた「妊娠・出産・育児」をサポートする活動を行う。その他、関連する記事の執筆やサービス・商品の監修、企業のセミナー講師、産科病院のコンサルタントなどを務める。
便秘に悩む妊婦さんは多いです。便秘が続くとお腹に圧迫感が生まれ、ストレスも感じます。食欲や食事量に影響が出ることもあるでしょう。妊娠中にはただでさえ体調の変化やつわり症状が生じやすいのに、便通の悩みまで増えるのはやっかいです。
「妊婦 便秘解消 方法」などでインターネット検索するママも多いですが、妊娠期に誤った解消法を行うと赤ちゃんへの影響が心配されます。
今回の記事では、なぜ妊娠すると便秘がちになるのか、妊婦さんに適した便秘改善法、よくある疑問を詳しく紹介します。
妊娠すると便秘になる原因
なぜ妊娠すると便秘になりやすくなるのか、その原因とメカニズムを説明します。次に紹介する対処法がなぜ効果的かを知るためにも必要な知識です。
●ホルモンバランスが変化するため
妊娠するとプロゲステロン(黄体ホルモン)と呼ばれるホルモンの分泌が盛んになります。プロゲステロンには筋肉を緩める作用があり、子宮の筋肉を緩め、妊娠がスムーズになるように助けます。
一方で、この作用が腸などの消化管にも働いてしまうことがあります。そのため、腸の動き(ぜん動運動)が低下して便秘になりやすくなってしまうのです。また、プロゲステロンの分泌量が一気に増える妊娠初期は、特にホルモンバランスによる便秘になりやすいです。
●つわりによって水分や食物繊維を摂りにくくなるため
つわりによる水分量や食物の摂取量の低下、食事の偏りも便秘の原因になります。水分不足や食物繊維の不足により、便が硬くなり、便通も悪くなって便秘を引き起こすのです。
つわりは、妊娠初期から生じる食欲不振や吐き気などの症状をいい、「悪阻(おそ)」とも呼ばれます。メカニズムはまだ十分に解明されていませんが、体内のホルモン変化が要因の一つです。症状の程度は様々ですが、妊婦の約50~80%に起こるとされています。
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●運動量が減少するため
妊娠による運動不足も便秘の要因です。
妊娠すると、疲れやすさやだるさを感じるなどの体調変化があります。また、流産や早産を心配して活動を控えたり、お腹が大きいため動きにくくなったりして、運動量が大きく減りがちです。
運動量が減ると、腸の動きが鈍くなり、便秘を引き起こしやすくなります。
●子宮が腸を圧迫するため
お腹が大きくなる妊娠後期も、子宮が腸を圧迫することで便が出にくくなるケースがあります。
妊娠中の便秘の改善方法
説明したように、妊娠期の便秘の原因には、ホルモンバランスの変化、子宮による腸の圧迫など、自分ではコントロールが難しい生理的な要因があります。
しかし、食生活や運動などの生活習慣も大きな要因になりえます。これらは自分でコントロール可能のため、ここで紹介する改善方法を試してみてください。
●こまめに水分補給をする
水分が不足すると腸の中で便が硬くなって排出しにくくなるため、こまめな水分補給を心がけましょう。
水分摂取量は便秘に影響しないという研究結果もありますが、小腸や大腸で便の水分が吸収されるため、便通をよくするには十分な水分摂取が必要です。
特に起床時の水分摂取は腸を刺激し、便意を促す効果を期待できます。目が覚めたら朝一番に水や牛乳を飲むのがおすすめです。
●食物繊維を摂る
食物繊維には、①便のかさを増やして腸の壁を刺激し、腸の動きを活発にする、②便をやわらかくする、など排便をスムーズにする働きがあるため、積極的に摂りましょう。
・食物繊維の摂取量
日本人の食事摂取基準(2020年版)では、15~64歳の女性の目標量を18g/日以上としています。妊婦さん、授乳中のママも同様です。
18g/日以上はあくまで日本人の平均的な摂取量から導いた目標量で、アメリカ・カナダの食事摂取基準では、大人は24g/日以上の摂取が理想的とされています。
・食物繊維を摂取する際の注意点
便秘の人が食物繊維を過剰に摂ると、かえって便秘を悪化させるため注意してください。「たくさん摂ればよい」というものではありません。
食物繊維には、水に溶けない「不溶性」と、水に溶ける「水溶性」の2種類があり、それぞれの働きは次のとおりです。
不溶性食物繊維 | ・水分を吸収して便のかさを増し、排便をスムーズにする ・腸をきれいにする
・腸内環境を整える |
水溶性食物繊維 | ・便をやわらかくする ・糖質や脂質の吸収を緩やかにする
・腸内の善玉菌を増やし、腸内環境を整える |
スムーズな排便のためには、「不溶性」「水溶性」のどちらの食物繊維も必要です。ただし、すでに便秘の人が「不溶性」を摂り過ぎると、腸内で停滞している便のかさが増え過ぎてしまい、かえって便秘が悪化してしいます。
食物繊維は「不溶性」「水溶性」をバランスよく、過剰に摂り過ぎないことが大切です。
・食物繊維を多く含む食材
食物繊維は、野菜類、穀類、豆類、きのこ、いも類、海藻類に多く含まれます。水溶性と不溶性の両方を含む食品が多いです。含有量の多い食品の代表例を表にまとめましょう。なお、小数点以下を切り捨てているため、食物繊維量が水溶性と不溶性の合計と一致しない場合があります。
食品名 | 100gあたりの
食物繊維量(g) |
(うち水溶性〔g〕) | (うち不溶性〔g〕) |
---|---|---|---|
ゴボウ | 5.7 | 2.3 | 3.4 |
ブロッコリー | 5.1 | 0.9 | 4.3 |
ライ麦パン | 5.6 | 2.0 | 3.6 |
もち麦 | 12.9 | 9.0 | 3.9 |
インゲンマメ | 13.6 | 1.5 | 12.0 |
あずき | 12.1 | 0.8 | 11.3 |
納豆 | 6.7 | 2.3 | 4.4 |
シイタケ | 4.6 | 0.4 | 4.1 |
キウイフルーツ | 2.5 | 0.8 | 1.6 |
リンゴ | 1.9 | 0.5 | 1.4 |
【出典】公益財団法人長寿科学振興財団(健康長寿ネット):食物繊維の働きと1日の摂取量ほか
便秘の人におすすめの食べ物は、上記のうち水溶性・不溶性のバランスがよい、もち麦、ライ麦パン、納豆です。特にもち麦は水溶性・不溶性共に含有量が多く、炊き込みご飯やリゾットにすれば妊娠中も食べやすいでしょう。
また、ビタミン類が豊富でのどごしのよい、キウイフルーツやリンゴなどもおすすめです。ヨーグルトなどと合わせれば、腸内環境を整える乳酸菌も一緒に摂ることができます。しかし、果物の摂りすぎは、果糖の過剰摂取につながるため、バランスよく食事に摂り入れていきましょう。
●適度な運動を心がける
散歩、ストレッチ、妊婦体操、水泳などの適度な運動は、腸に刺激を与えて便秘の改善に役立ちます。妊娠の経過が順調で過去に早産や流産の経験がない場合は、無理のない範囲で積極的に行いましょう。運動は、妊娠によるマイナートラブル(頭痛、倦怠感、つわり症状など)にも効果的です。運動をはじめる際は、かかりつけの医師に確認してから行いましょう。
妊娠中に行う運動は、有酸素運動で、負担を感じることなく会話ができる状態を保つことができる運動がよいとされています。また、アメリカ・イギリスのガイドラインでは、これらの運動を1日30分以上行うのが望ましいとしています。
お腹が張る場合は無理して行わないようにしましょう。特に妊娠中期以降は切迫早産の危険があります。また、臨月の際は自宅でできる軽めな運動にするとよいでしょう。
●規則正しい排便習慣を保つ
朝食後にトイレに座ってみるなど、一定の時間に排便するように習慣づけます。また、規則的な排便習慣が保てるように、食事や一日の生活リズムも規則正しくしましょう。
●マッサージを行う
お腹に3本ほど指を当てて、「の」の字を描くようにマッサージします。大腸の走行に沿って時計回りにマッサージすることで、滞留している便を動かすのです。
便秘の際、一般的によく行われる方法ですが、妊婦さんが行う場合は、赤ちゃんを圧迫しないように優しく行いましょう。マタニティクリームなどで、妊娠線のケアを行いながらマッサージするのもおすすめです。
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便秘に悩む妊婦さんの気になる疑問
胎児への影響、便秘薬の服用、医師への相談のタイミングなど、便秘に悩む妊婦さんが気になる疑問と答えをまとめました。
●妊婦さんの便秘は胎児に影響する?
赤ちゃんは子宮の中で羊水に浮いた状態で成育しています。羊水というクッションで外部からの衝撃や圧迫から守られているため、便秘そのものが赤ちゃんに影響するとは考えにくいです。
●便秘薬は飲んでもいいの?
食事や運動で改善しない場合、酸化マグネシウム、大腸刺激性下剤などの便秘薬が処方される場合があります。
便秘薬(下剤)のなかには胎児への安全性が確保されていないもの、子宮収縮を誘発するものがあります。市販薬は使わず、かかりつけ医に相談しましょう。
●医師へ相談するタイミングは?
腹痛がひどいとき、排便時に出血したときは、痛みを我慢せず医師になるべく早めに相談しましょう。痔が出てしまったときも相談するとよいでしょう。
妊娠中は赤ちゃんの安全が重要なので、気になることがあれば医師に相談してください。
便秘を解消して妊娠中のストレスをなるべく減らそう
妊娠すると便秘になりやすい理由、自分でできる解消法、薬、病院やクリニックに受診する目安などが分かったでしょうか。便秘は生活習慣で改善できるかもしれません。「ストレスのもと」は一つでも減らしておきたいものです。
一方で、妊娠中に様々なストレスや不安を感じるのは当然です。そもそも生活しているなかで、いつも笑って、幸せな気持ちでい続けることは難しいでしょう。気を楽に過ごしてください。